夢の第一歩

鍼灸師 染井 紀子

「鍼灸師になりたい」この夢を与えてくれたのは、18年前のネパールだった。

当時の私は、NGOから派遣された先生として、孤児院で活動をしていた。当時から、スポーツ外傷で鍼灸院に通っていた私は、今回のヘルスキャンプでお世話になったイスワルさんの治療所を訪れていた。もちろんイスワルさんは覚えておられるはずもなかったが、この会話をきっかけにネパール人鍼灸師の中にスムーズに入ることができたように思う。

 1日目、ホテルから徒歩で無料巡回医療の会場へ向かうと、ネパール人鍼灸師たちによってすでに会場の準備がされていた。床にござを敷いて、その上にマットレスが9床。「ここで活動するんだ。」と感慨にふけっていると、すぐに鍼のセットを渡された。「やるしかない。」不安を抱えつつ、すぐ施術に入った。隣では、黒川先生が手際よく治療を始めていた。その動きを横目で見つつ、鍼を打っていく。夢中になっていると、すぐにすべてのマットがいっぱいになり、ネパール人鍼灸師、日本人鍼灸師、ボランティアスタッフで部屋がごったがえした。日本では、一対一でしか治療をしたことがない自分にとって、複数の患者さんを同時施術するのは困難であった。自分のすぐ後ろにいる患者さんでさえ診ることができず、黒川先生が手助けに来てくださった。黒川先生は、常時3~4人を同時に施術されていた。その負担を少しでも減らしたく、2人を同時に診るというところに何とか行きついて一日が終わった。

2日目、昨日のカンファレンスの後、違う部屋で主に膝の疾患のみを扱うポジションについた。「膝なら、何とかなる。」他の先生方に比べて、絶対的に臨床経験が不足している自身にとって、希望がもてた。しかし、そのかすかな希望もすぐに打ち砕かれた。坐位にての施術に限定され、また、足の悪い患者さんにとっては非常に座りにくい椅子であり、さらに、体の向きを変えることも難しかったのである。膝の疾患に限定されたものの、治療できる範囲も同時に狭められたのである。その中で、遠隔治療を施すことを考えた。しかしながら、膝が痛いと訴える患者さんに対して、肘から先を使っての治療は納得してもらえず、断念した。それにも関わらず、山本先生、高橋先生は、積極的に遠隔治療を施し、確実に患者さんに治療効果を上げていた。「いいのよ、一回でよくしようと思わなくて。何回も来てもらって、治療効果を感じてもらえば。」また、黒川先生の言葉に救われた。

3日目、「この施術で、効果が出ているのか。」迷いの中で治療をする。「ほんと、あんたええ人やなぁ。」

とおばあちゃんに言われ、頬をなでられた。「昨日より、ようなったで。本当にありがとう」数名から声を掛けられた。自信がなく、治療効果が感じられない中での温かい言葉に涙をこらえた。

こうして、4日目、5日目と過ぎていった。毎日継続して患者さんを診ることができたこと、言葉が分からない中でのコミュニケーションをとったこと、鍼灸の可能性を体感できたことがすばらしい経験となった。今後、鍼灸師として、教師としてどのようにこの国に関わり、自身がどうしていきたいのかを考える貴重な数日間であった。